社会人の学びやすさ

修了生の声

写真左から、

  • 西河 洋一 さん(2009年3月修了)飯田グループホールディングス(株) 代表取締役社長
  • 阿部 剛士 さん(2007年3月修了)インテル(株)取締役兼副社長執行役員
  • 長田 ゆかり さん(2013年4月入学)(株)Pro-SPIRE代表取締役社長
  • 長谷川 豊 さん(2011年3月修了)ヤマハ(株)上席執行役員
  • 田中 秀穂 教授 工学マネジメント研究科長

「なぜいい技術が市場化しないのか」

田中 秀穂 教授 工学マネジメント研究科長

田中 秀穂 教授
工学マネジメント研究科長

田中 本学の工学マネジメント研究科は、技術と経営を俯瞰できるイノベーション人材を養成する日本で最初のMOT専門職大学院ですが、皆さんはどのような動機や目的から本研究科に入学されたのでしょうか?

長谷川 MOT を学び始めたのは会社で研究開発部門の責任者を命じられてからです。それまではインターネット関連部門の担当でしたから、新たな部門の責任者として必要な知識や経験が十分ではないことを課題として感じていました。研修やセミナーで足りない部分を少しずつ埋めていくのではなく、研究開発の現場で活かせる体系的な知識をしっかりと学んだ方がいいという思いからMOT を志望しました。

阿部 私は多くの企業とビジネスをする中で、素晴らしい技術を持ちながらそれが市場化しない現場を多く見てきました。「なぜだろう?」という疑問がMOT を学び始めた要因の一つです。また、社内では役職が上がるにつれて米国本社との会議や打合せが多くなり、その場で飛び交うさまざまな専門用語への理解を深めていく必要性を感じていました。そうした外部要因と内部要因がMOT の門戸を叩く動機になっています。

西河 洋一 さん 2009年3月修了 飯田グループホールディングス株式会社 代表取締役社長

西河 洋一 さん(2009年3月修了)
飯田グループホールディングス(株)
代表取締役社長

西河 私の会社は不動産を扱うデベロッパーですが、私が入社した当時は債務超過で社員が10人にも満たない小さな会社でした。そうした状況から数年でジャスダックに上場し、さらに数年で東証一部上場を果たすことができました。会社は飛躍的に発展しましたが、私自身は経営の勉強をしたことがなく、それを課題として感じていました。なぜ成功できたのか。その理由や要因を学問を通して理解したいというのが入学の大きな動機です。

長田
IT戦略を支援する企業の社長になって7年になります。経営トップに立った直後にリーマンショックがあり、困難な状況の中でも会社を発展させていくために歯を食いしばって無我夢中でやってきました。ですが、変化の激しいIT業界の中で今後も持続的に会社を成長させていくには、やはりトップが経営に必要な生きた知識や思考法を体系的に学び、それを経営の現場で活かしていく必要があると気づいたのです。それが2年前からMOT を学び始めるようになったきっかけです。

学びで表れたビジネスの“成果”

田中 MOT という学問がアメリカで生まれたのは1980年代です。社会的・経済的な危機感の中で生まれ、発達してきました。危機感が勉強のきっかけになるというのは個人も同じですね。ところで皆さんはMOT を学んで、どのような成果がありましたか?

長谷川 豊 さん(2011年3月修了) ヤマハ(株) 上席執行役員

長谷川 豊 さん(2011年3月修了)
ヤマハ(株)
上席執行役員

長谷川 研究開発部門の責任者を3年、その後、新規事業を担当する事業部門長を務め、昨年からは製品開発と研究開発を総合的に見る立場になっています。MOT でインプットしたことをまた新たな部門で実践し、アウトプットする毎日です。MOT を学ぶ中で私のキャリアでは出会えなかった新しい人脈ができたことも大きな収穫の一つですね。

阿部 技術系出身の私が財務諸表を見て笑えるくらい、数字の裏までしっかり理解できるようになったことは大きな変化ですね。アメリカとのコミュニケーションも非常によくなりました。長谷川さんと同じくヒューマンネットワークが格段に広がったことも大きな変化です。

西河 リーマンショックの影響を受けて同業者がばたばたと倒れていく時期に私はMOT を学んでいました。修了したその年に会社は膨大な経常赤字を出しましたが、MOT で学んだことを実践し、翌年はその額を完全に埋めることができるだけの経常黒字を出すことができ、V 字回復を果たすことができました。これはまさにMOT に通うbefore とafter ではないでしょうか。

長田 アメリカでは社会人になっても勉強しつづける人が多くいますが、日本ではほんの数パーセント。その数パーセントの中に入ってトップが率先して学ぶ姿は社員にもよい刺激になっているようです。これからも会社の経営に貢献できるように、次のステップも見据えながらさらに学びを続けていくつもりです。

働きながら学び続ける意義

田中 本学のMOT 専門職大学院が提供するのは、イノベーションによって科学技術立国をさらに実りあるものにするための生きた学びです。皆さんのようなリーダーが職場と大学キャンパスを行き来しながら必要な知識を身に付けていくことは、持続的な社会の発展のために非常に重要なことだと思いますね。しかしながら、長田さんが話すように日本では大学や大学院で学び直す社会人がまだまだ非常に少ないのが現状です。欧米では大学生・大学院生の20%から30%が社会人というデータもあります。日本とは一桁以上の違いがあります。本学のMOT 専門職大学院では社会人学生の学びを支える体制を整えていますので、もっと多くの社会人の方に学んでいただきたいですね。

長谷川 私は出張が多く、会社のある浜松と東京を行ったり来たりの生活をしていました。行き帰りに新幹線を使う私にとって芝浦のMOT 専門職大学院が通いやすい立地にあったことも大きなポイントでした。社会人が仕事をしながら学ぶというのは大変なことですが、時間的な制約がある中でもしっかりと学んだ方がいいと考え、2年間自分自身を鼓舞しながら学び続けました。仕事に必要なパーツやコンポーネント的な知識を勉強しようという人は多いと思うのですが、私たちのように大学キャンパスに通って体系的な知識を得ようとする人が少ないのは、会社のためになにもそこまで自分がやる必要がないという心理がどこかにあるからかもしれませんね。また、居心地のいい環境にいると、経営に関わる人たちが感じているような危機感を感じることも少なく、現場は指示されたことだけやっていれば安泰というような思考に陥ってしまうということもあるでしょう。

阿部 いまは物事の定石がすぐに変わってしまう時代です。リーダーたちが学び続けることをやめてしまうと、経済がバブル崩壊後の「失われた20 年」のような状態にならないともかぎりません。ゼロサム的なメンタリティになってしまっては、変化や危機への対応力も弱くなってしまいます。国を滅ぼす一番簡単な方法は、教育を絞めつけることであるという説もあります。変化の激しい時代の中で自己の成長や社会の発展を持続させるためには、価値創造の能力を高めていく以外に方法はありません。MOT 専門職大学院はまさに自身の価値や会社の価値を高める能力を身に付ける教育の場ですし、私は講義や演習からだけでなく、ここで出会った異業種の人たちからも非常に多くのことを学ばせていただきました。私も人脈には自信があったのですが、いかに自分の世界が狭いかがここに入学してわかりました。MOT の学びを通して築いたヒューマンネットワークは、派生を続けていまも広がりつづけています。

長田 ゆかり さん(2013年4月入学) (株)Pro-SPIRE 代表取締役社長

長田 ゆかり さん(2013年4月入学)
(株)Pro-SPIRE
代表取締役社長

長田 日本で社会人学生が増えないのは、長谷川さんがおっしゃるように、言われたことをやっていればお給料がもらえる非常に平和な環境が要因の一つなんでしょうね。当社ではプロフェッショナルとしてのスキルを身に付けさせるために、グローバルで通用する資格を取得するように啓蒙しています。また、CDA(キャリアディベロップメントアドバイザー)の資格をもった人材育成責任者が全社員と個別に面談し、社員全員のキャリア形成の支援を行っていますが、個人も会社もチャレンジ精神を持って学び続けていかなければ、自己の開発や組織開発、そして会社の発展も難しいと思いますね。当社はITサービスを主軸としている会社ですので、技術者が多いのですが、IT産業が必要とする次世代の人材像としてよく言われるのが、ギーク・スーツタイプの人間、つまり技術に秀でたITプロフェッショナルだけでなく経営的なスキルも持ち合わせたビジネスプロフェッショナル人材なのです。その人材像というのは技術と経営を結びつけるという点でMOT 専門職大学院と同じなんですよね。

西河 社会人になっても学び続ける必要があり、学んだことの成果は必ず出るということを私も身をもって体験しました。私がMOT 専門職大学院に入学したときの経営者としてのレベルは非常に低かったと思います。事業価値を創造するための思考法や方法論を学んだおかげで、修了した時点ではめざすレベルの70%ぐらいまで高めることができました。しかしながら、まだまだ勉強しなくてはいけないという思いから、MOT 専門職大学院で築いたネットワークを生かして、アーネスト育成財団というものを設立して、日本が豊かで明るく持続的に成長していくための研究や交流をはじめとするいろいろな事業を行っています。社会人になると非常に現実的に物事を考えるようになりますから、スキルアップになることとはいえ費用のことなどを考えると新しい学びにチャレンジすることをためらうようなこともあるでしょう。ですが、MOT 専門職大学院の場合は学びの成果はとても大きなものがありますから、ぜひチャレンジしていただきたいですね。

阿部 MOT の授業は実務と理論を融合させた実理融合型ですが、西河さんの場合は入学前の経験知が非常に大きくて、入学してからそこに理論が結合したから、成果も面白いように出たのでしょう。実務と理論を融合することの面白さをいまの日本の多くの経営者に感じてほしいと思いますね。また、アセットである社員に対してキャリア・デベロップメントの機会を与えることも経営者の重要な役割であると私は考えています。学びの成果を可視化することはなかなかできませんが、自己成長・自己開発をサポートしてあげればまちがいなく会社は変わると私は思いますね。

田中 MOT 専門職大学院での学びをさらに充実させるために、ビジネスエスノグラフィー、人的資源管理論、組織構造論などの専門の先生方に新たに教授陣に加わっていただきました。これからも皆さんの声をフィードバックしながら教育の充実を図っていきますので、社会と大学、両方の観点から今後もいろいろな意見をお聞かせください。

経営トップから技術職以外の方まで学んでもらいたい

田中 本学のMOT 専門職大学院には、「文理融合型」「実理融合型」「問題解決型」の授業をはじめ、今日の話の中にも出てきましたように、在学生・修了生たちとの活発な異業種交流、さらに社会人が通いやすい立地や、平日の授業はビデオ授業で受けることができ、土曜日だけの通学でも修了できる受講システムなど多くの特色がありますが、皆さんは自らが実際に学んだ経験から、MOT での学びはどのような人に合っていると思いますか?

西河 私は社長という立場でMOT を学び、さきほどもお話ししましたように、学び得たことを事業に次々と反映させることで、リーマンショック後の不動産不況を乗り越えて会社を発展させることができました。経営者は学んだことを事業の現場ですぐに実践できる立場にありますから、私は特に経営者の方にMOT を学んでいただきたいと強く思いますね。

阿部 剛士 さん(2007年3月修了) インテル(株) 取締役兼副社長執行役員

阿部 剛士 さん(2007年3月修了)
インテル(株)
取締役兼副社長執行役員

阿部 ここにいる皆さんは社会経験が豊富な方たちですから、それこそスポンジが水を吸い取るように講義や演習で学んだことを余すところなく吸収し、それを自らの経験知と結びつけてそれぞれの立場で役立てることができているんでしょう。西河さんがおっしゃるように、会社の発展に直接的につなげるという意味では経営者の方にぜひMOT を学んでいただきたいと私も思います。また、キャリア・デベロップメントの観点からいえば、係長から課長ぐらいの年代の人にも勧めたいカリキュラムになっていると思いますね。どこの会社にも高い意識を持った人、志を秘めた人はいるはずなので、さきほどもお話ししたように経営者のみなさんにはそういう人たちが新しい学びにチャレンジしやすいような仕組みや環境をぜひつくっていただきたいですね。

長田 私も授業で学んだことを速やかに経営に活かせる立場にいますので、経営トップがMOT を学ぶ意義の大きさを身をもって感じています。やはり一度社会に出てある程度の年数マネジメントを経験した人の方がMOT の学びの成果を発揮しやすいように思います。私は「特定課題研究」というあと1科目が終われば修了となりますが、私が修了したらしかるべき社員に学びのバトンを渡して、会社として継続的にMOT を学び続けていくことを検討しています。

長谷川 私はメーカーに勤めていますので、メーカーの技術職や、技術が重要な仕事として成り立っている会社の人たちには、ぜひMOT を勉強してほしいと思いますね。また、できれば技術職以外の人たちにもすべからくMOTを勉強してほしいという思いがあります。技術職以外の人たちがマネージャーや経営陣になったときに、「技術のことはわかりません」では技術の会社の経営はできません。MOT 専門職大学院は技術者のための学びの場というイメージがありますが、全然そんなことはないので、もっと幅広くチャレンジしてほしいと思います。私ももともとは文系出身の人間なんです。開発担当でもあり、MOTについて語ったりすると、とても文系だと信じてもらえませんが(笑)。

田中 本学のMOT 専門職大学院は、専門実践教育訓練給付金の支給対象となる厚生労働大臣指定講座です。一定の条件を満たした方には給付金が支給されますが、その額が大幅に引き上げられることになりました。授業料の負担も軽くなってもっと学びやすくなりますので、多くの方にぜひMOT の学びを検討していただきたいと思います。皆さん本日はお忙しい中お集まりいただき、本当にありがとうございました。

芝浦工大 芝浦キャンパスにて

芝浦工大 芝浦キャンパスにて

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